自筆証書遺言保管制度と公正証書遺言の比較は

自筆証書遺言保管制度というものが始まりましたが公正証書遺言と比べてどっちがいいのでしょうか?

自筆証書遺言保管制度にも公正証書遺言にもメリットデメリットがありますし、両者の特徴を踏まえたうえでどちらが自分にとって使いやすいかをよく考えて選択するのがいいでしょう。

自筆証書遺言保管制度と公正証書遺言、どちらを選ぶべき?

2020年7月10日より自筆証書遺言保管制度がスタートし、自筆証書遺言が大幅に使い勝手が良くなったことにより、保管制度を利用して自筆証書遺言を作成するのと公正証書遺言を作成するのとではどちらの方が良いのかという疑問を持つ方も出てきたようです。

最初に結論から言えば使い分けということになると思われます。

今回は自筆証書遺言保管制度と公正証書遺言を比較しながら説明していきます。

自筆証書遺言保管制度が優れていると思われる点

自筆証書遺言保管制度が公正証書遺言よりも優れていると思われるポイントは以下のようになります。

公正証書遺言に比べて費用がかなり安くつく

自筆証書遺言は保管制度の求める様式で作成で作成してもほとんど作成には費用はかかりません。

自筆証書遺言保管制度の申請には3,900円の申請手数料がかかりますが、保管そのものには手数料はかからず無料です。

一方で公正証書遺言には下記の通り公証人手数料がかかります。

相続財産の価格手数料
100万円以下5,000円
100万円を超え200万円以下7,000円
200万円を超え500万円以下11,000円
500万円を超え1,000万円以下17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下29,000円
5,000万円を超え1億円以下43,000円
1億円を超え3億円以下43,000円+5000万円までごとに13,000円
3億円を超え10億円以下95,000円+5000万円までごとに11,000円
10億円を超える場合249,000円+5000万円までごとに8,000円

1億円以下の場合はさらに遺言加算として+11,000円が必要ですし、出張してもらった場合は基本手数料は1.5倍になります。
また、証人を2名公証役場に手配してもらうと2万円ほどかかります。

一番多いのは3000万円から5000万円だと思われますが、実務ではだいたい5万円前後の場合が多いようです(ケースによるので一概には言えません)。
当事務所で扱う案件でもだいたいそのあたりが頻出かと思います。

当事務所などの専門家に手続きを依頼した場合はその報酬もかかりますのでなかなかの高額になることは否定できません。

遺言の内容を秘密にできる

自筆証書遺言を作成して保管制度を利用する場合、遺言書の内容を知ることができるのは申請時の法務局の担当者だけということになります。
また法務局の担当者についても確認は様式面だけで内容の審査は行いませんので詳しく内容を知られることもありません。

一方公正証書遺言は公証人と二人の証人には必ず内容を知られてしまいます。

できるだけ遺言の内容を知られたくない場合は自筆証書遺言保管制度の方が知られる数においては有利、ということになります。
(現実的には公正証書遺言の作成に関わった人がほかに内容を漏らすことは考えにくいですが)

相続人等への通知制度がある

自筆証書遺言保管制度には法務局による相続人等への通知制度があるのが大きなポイントです。相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり遺言書の閲覧をした場合には、その他の関係する全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知がされます。
この制度により遺言の存在を知っている人だけが得をするということを防ぐことができます。

通知制度にはもうひとつあり、遺言者の死亡時にあらかじめ遺言者が指定した推定相続人等に対して遺言書が保管されていることを通知する制度です。
この制度により遺言者の死亡時に遺言の存在が見落とされてしまうことを防ぐことができます。

公正証書遺言にはこういった通知制度はなく(そもそも公証役場には遺言者一人一人の死亡を確認するようなことはできない)、公正証書遺言の遺言者が死亡した場合、相続人等が自ら公証役場で公正証書遺言が作成されているかについて調べる必要があるということになります。

公正証書遺言の方が優れていると思われる点

公正証書遺言が自筆証書遺言保管制度を利用した場合よりも優れていると思われるポイントは以下の点になります。

遺言が確実に執行される可能性が高く、紛争予防効果も高い

自筆証書遺言保管制度は自筆証書遺言を保管し、いざというときに通知してくれるシステムに過ぎず、先述の通り遺言の内容の確認や遺言者の意思の確認といったことを行うことはありません。

一方公正証書遺言は公証人との事前打合せの上で作成し、当日は証人二人による立ち合いの元公証人が本人に遺言の趣旨を口述させて意思を確認するという過程を取り、本人の意思確認や遺言能力の確認が行われます。

遺言についてはそれが本人の作成したものであるかはもちろん、本当に本人の意思によるものなのかも争われたりしますが、そういったことを考えると保管制度を利用したとしても自筆証書遺言と公正証書遺言ではその紛争防止効果にかなりの差があることは否定できません。

遺言の執行についても同様のことが言え、公正証書遺言の方がスムーズに執行ができることが多いのも事実で、自筆証書遺言だと紛争に巻き込まれるのを懸念してなどの理由で執行がなかなか進まないケースも見られるようです。

遺言に期待される一番重要な効果においてはやはり両者に差があるのは認めざるを得ません。

遺言者の実際の作業量は公正証書遺言の方が少ない場合が多い

自筆証書遺言その名の通り自分で内容をすべて(財産部分は改正から印刷でもよくなりました)記載する必要があります。
また、間違えた場合の修正方法も厳格に決まっているため、思っている以上に作成に神経を使うのです。

これに対し公正証書遺言は公証人が聞き取った内容で作成してくれるので実際は基本的に公証役場に出向く必要はあるものの、公証人と話をして署名押印すればよく、実際に作成してみるとかなりあっけなく思う人が多いです。

公証役場に出向かないといけないというところについても公証役場はどの公証役場でもよいですが、自筆証書遺言保管制度において申請できる法務局は決まっているので実際には公証役場に行く方が楽なパターンもあり得ます。

公証人の出張ができること

自筆証書遺言のメリットの部分で公証人に出張してもらうと通常より費用がかかることを説明しましたが、実際には費用は掛かるとはいえ公証人の出張があることは自筆証書遺言保管制度よりもかなり大きなアドバンテージになることがあります。

自筆証書遺言保管制度は郵送申請は認められず、遺言者本人が必ず法務局に出向く必要があります。これは遺言書という何人もの人に関わる手続きであることから仕方ない面もありますが、入院中であったり実際に法務局に脚を運ぶのが難しい方には利用がかなり制限されることになります。

この点公正証書遺言であれば費用はかかるものの、公証人に出張してもらって入院先でも自宅でも遺言を作成することができます。

最後に

自筆証書遺言保管制度により遺言書の作成に選択肢が増えたといえます。
以前は実際のところ自筆証書遺言はいざというときに金融機関などに断られて執行ができない、本当に遺言者の遺言かどうかで紛争が起きるなどで実務上かなり問題があり、選択肢とするのには難しいところがありました。

遺言書の保管が確実に行われることや本人の遺言であることは確実にわかるようになったことで自筆証書遺言の利用はかなりしやすくはなったといえるでしょう。

しかし残念ながら遺言の有効性の担保や紛争防止効果については変わらず公正証書遺言にかなり分があります。
今後も公正証書遺言を中心に考えつつ、内容がシンプルで有効性に疑問が持たれにくい(遺言者がまだ若く意思能力の紛争が起きる可能性が低いなど)場面で自筆証書遺言の利用が進むのではないかと思われます。

このギモンの解説は

行政書士 勝見功一
行政書士 勝見功一
京都市上京区で申請取次行政書士をしています。
相続・遺言手続きの情報を中心に、情報の提供をしています。
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